120杯目 「盗撮は犯罪デス!」

目まぐるしい日進月歩で進む近代化。そこに反比例して、日本人としてのアイデンティティーが失われていくような気がして少し寂しい松原がお送りするこの大人気コラム。
横文字が氾濫し、カタカナが横行するこの社会。普及し続ける携帯電話キャリアにも原因がある。
顔を見て話す事を忘れ、メール文化へ。携帯電話を使った犯罪も増加を辿り、カメラ機能に始まり、無意味な機能がこぞって開発されこの携帯電話は果たして我々にとってプラスなのかマイナスなのか??

そんな事を考えながら東京出張で立ち寄った池袋駅。
打合せを経てこのまま神戸に帰ろうと改札に差し掛かった時!
激しい怒号が松原の鼓膜に響く。

「お前、携帯を出せ!」
「なんでだよ!離せよ!」

こんなやりとりがいきなり松原の横で行われ、男性2人が取っ組み合いをしている。
好青年な大学生風の男が華奢で如何にも根暗な男の手をひっぱり、携帯電話を奪おうとしているではないか!
何事かと思い、眺めていると行きかう通行人や野次馬が集まり2人を囲むサークルが完成。
その円の中心である2人の取っ組み合いはどんどん激しくなり、もはや華奢な彼のTシャツはヨレヨレになっていた。

「お前が盗撮してたのは見てたんだ!早くその携帯を出せ!」
「知らないって、離せよぉぉぉ」

どうやら華奢な彼は携帯で盗撮をして、それを見た好青年が捕まえようとしている事が理解出来た。
するとかなりガタイのいい男性もそのやりとりに加わり、激しく抵抗する華奢君のTシャツを掴み、振り回しだした。

柔道でもやっているのかの如く、匠みに華奢君を投げ飛ばし、羽交い絞めにし出した。
好青年君は前線から離れ、息を整えながらその攻防を見守る。
柔道君はどんどん技を決めていき、殴りはしないがダメージを華奢君に与えていく。

両者とも顔を真っ赤に、かなり興奮した様子である。
その光景に周囲の女性は悲鳴をあげ、構内はパニックに陥る。

松原はもう目が離せなくなり柔道君と一緒に華奢君を取り押さえる事にした。
華奢君は華奢なくせに火事場のクソ力で抵抗を見せ、逃げ切ろうとする。
もう何語か解らない奇声を発し続けて、ちょっと怖くなる。

そして遂に柔道君の寝技から抜け出したのだ!

慌てて松原が華奢君のTシャツを掴んだらTシャツからスルリと抜け出し、上半身裸の状態に。
しかし柔道君は体制を立て直しまた華奢君に飛び付いた!

もう凄い光景である。

柔道君のシャツもほぼボタンが外れ、両者上半身裸状態である。
こんな事を言うと不謹慎であるが「超オモシロイ光景」である。
思わずこの光景を収めたくなり、携帯電話でこの2人を撮影!

凄い写真が撮れた。

これはいい話のネタだと思った瞬間!人混みの壁から警察官数名登場し無事、華奢君はお縄となる。
好青年君が連行される華奢君に「盗撮は犯罪だぞ!」と怒りあらわに叫ぶ。

最近の青年も捨てた物じゃないと感心し、一部始終を見届る。

そして一安心で改札を潜る松原。

盗撮とは本当に許すべき行為!
相手の許可なく撮影する行為は悪であり、この携帯電話で気軽に撮影できるという事も問題である。
盗撮という不法行為について考えながら電車に乗り込み、改めて携帯に写った上半身裸の男性達の凄まじい写真を見なおす。

するとふとある不安に襲われる。

いや、そんな事は無い。

いや、…でももしかしたら。
盗撮への怒りの量だけ不安が圧し掛かり怖くなり、自問してみる事にする。

「その…この上半身ほぼ裸の男2人の写真も…盗撮になる?」
ほぼ満員で混雑した車内。

さっきまで聞こえていた雑踏は急に聞こえなくなり、好青年君の「盗撮は犯罪だぞ!」という言葉だけが松原の中で何度も繰り返される…。

-2015/01/21 update-