137杯目 「なぜそばにいるの?」

先日、ひさひざの金沢出張があり、仕事を終えて夜の街へ繰り出した時の事です。

ええ時間まで飲み明かし、ホテルに帰る前に温かいお蕎麦が食べたくなる年頃。

一緒に飲んでた金沢住人に「この辺でお蕎麦たべれる所ないの?」と尋ねると

「いや~、この時間はもう無いな~」say。

 

しかし諦められず徘徊をしていると「うどん・そば」の看板を発見!

「あるじゃん!」松原は嬉しくてその店に駆け寄る。

すると金沢人が「いや、松原さん、ここクッソまずいっす!やめときましょう!」say。

確かに蕎麦屋とは思えない古い喫茶店みたいな外観で窓から店内を覗くと長渕剛先生のポスターが貼られていて何とも怪しい空気である。

しかしパラボラアンテナ並に指向性の強い松原のセンサーが面白い匂いをキャッチする。

 

「何故ここで蕎麦を食べない?」

 

逆説で金沢人を言い負かし、未開の店内へと突撃する。

 

すると如何にも頑固そうな大将と若い見習いの青年の2人がカウンターから我々を凝視してから、無言で作業の続きに戻った。

日本ではお店に入るとまず「いらっしゃい」じゃなかったっけ?

この違和感に一瞬立ち尽くしてしまう。

しかし松原がたまたま聞こえなかっただけかと思い、とりあえずカウンターの席に座る。

そして次の違和感はBGM。

 

多少は予想していたが"長渕剛先生オンリー”のBGMである。

酔っぱらっていた松原はどんどん面白くなり大将に絡んでいく。

 

「長渕さん好きなんすか?」しかし完全に無視である。聞こえていないのかと思い次は「おすすめのそばって何ですか~」という質問も、、、、、、…無視である。

さすがに苛立ってきたが、もしかしたら歴史記念館とかにあるよく動く人形の可能性もある。

もう一度「おすすめって何ですか?」と強く質問をすると「全部だよ」とキレた感じで答えてきた。

 

完全に宣戦布告である。

 

悪乗りが始まった松原は「じゃーどれが人気ですか?」と応戦。

するとしぶしぶ大将から「天ぷらそば」と単語の回答。接客業で体言止めとは信じ難い。

 

「そうなんすね!じゃー“きざみそば”で」

 

会心のボケも当然、無視される。

 

 

すると大将は矛先を変えてアルバイトの青年に「おまえコラ!水、出さんかい!何考えとんじゃ!」とキレだした!

もの凄い勢いでキレてるの絶対こっちへの威圧だと察知。ここでビビったら松原の男が廃る。

「長渕のどこが好きなんすか?」「結婚してるんすか?」「旨いっす!めっちゃ旨い!この水」とかガンガン大将をイジりまくるがこっちには反応せず、青年に対して、どんどん怒号を飛ばし始める。

段々松原のせいで当たられている青年が可愛そうになる。きっと一人前のそば職人を目指して大将の元で厳しい修行をしているのであろう。

だからこんなにキレられても言い返さずに耐えているのだ。ずっと些細な事で大将に怒鳴られている青年に感動さえ覚え始めた。よくここまで耐えれるものだ。せめてもの罪滅ぼしで、ここは青年のフォローをしようと話しかける。

 

「大変だね、こんなに怒られて。やっぱり大将の味に惹かれてここで修業してるんだよね?」

 

この質問で「はい!大将の味は最高です。」と答えると大将も絶対悪い気がしないはず!

 

最高のセンタリングを青年にあげた松原。後は簡単に決まるシュートを待つのみ。絶好のパスを受け取った青年は松原の方を向いて、ちょっと驚きながらこう発した。

 

 

「え?いや、全然違います。普通にバイトしてるだけっす。」

 

 

そこから松原がそばを食べ終わるまで大将の怒号は加速し、青年は耐え…いや、無視を続ける。まじ何なのこの2人。

んで、そばマズっ。

-2017/07/22 update-