39杯目

僕は免許書が無くなりました。

それは不便か不便で無いかの文脈で言えば大至急“不便”である。
これはグローブの無い硬式野球に匹敵するクラスである。
しかし自業自得の僕は以前のコラムで書いた通り、違反の連続で点数が無くなり、国に返却命令が下されました。
それはまるでエロビデを返すのを忘れていて、レンタル屋の女性の店員から

「松原裕さんですか?今月の18日にお借りになった“悶絶○○ナースの雄叫び”がまだ返却されていないようなのですが…」

と電話越しに告げられる様に平然とその返却命令は下される…
それ以降打ち上げでTSUTAYAのカードを
「こんなものがあるからバンドのCDが売れなくなるんだっ!」
とか言いながら破く所謂「鉄板ギャグ」(*鉄板=硬いので、安定した固いギャグの意)
を繰り広げた翌日TSUTAYAに会員書再発行の手続きが想像を絶する面倒臭ささになってしまった…

そんな免許書返却ですが、中々警察は考えていて、ラストチャンスを与えてくれる。

それは免許書が無くなりますの通知と同時に聴聞会という“言い訳”を聞いてくれる集会を開いてくれるのだ。
そこで理由を説明すると極まれに情状酌量で免許取消しを取消してくれるというシステム。
これは素晴らしい。
その聴聞会に行かなければ数ヶ月後に有無を言わさず取り上げられるのだ。
言い訳や相手の懐に入り込むのが三度のメシより得意の松原としては大至急その聴聞会に向かう決意をあらわにする。

数週間後に向かった聴聞会。
到着した兵庫県警の一室には50人余りの免許取消者が集っていた事に驚く。
これは凄い数である。神戸市でこの数ヶ月に取消処分を喰らった数にビックリである。
それはまるで小学生のクラス40人中“一人称が「オラ」or「オイラ」”もしくは“修学旅行で好きな人を絶対言わない奴”のパーセンテージである。

そんな事を考えている間に始まった当イベント。
驚きのタイムスケジュールはなんと50人余りの人間を一室に集め学校の教室の様に座らせて一番前に座っている審査員みたいな奴に一人ずつ名前を呼ばれてみんなの前で説明をするという辱め的制度。
丁度真ん中ぐらいの席の松原は好都合と判断し、前までの人間の理由などを分析し、より審査員の心に響くワードをロジカルにチョイスして紡ぎ集める事にする。
様々な処分者の言い訳がその緊張した会場の沈黙を満たしていく。
満を持して松原の出番を向かえ、的確にそして車の免許が無くなる事によって病気の母の通院や子供の保育園の送り迎えの困難さをアピールし、相当いい感触で僕の言葉は鋭い爪で警官の心を捕らえる。
勝利の女神とアイコンタクトをした僕は誇らしげに説明を終え、席を立とうとした瞬間にこの場所で一応“免許書”を置いて行かなければならないと告げられ、財布から取り出して机の上にそっと置くや否や、警官が登山中に急に降り出したスコールを彷彿させる山の天候のごとく表情を変える。

コレァ!!お前これなんやっ!何を考えてんのや!

会場のうたた寝の処分者が一斉に視点を僕の背中に合わせる。

お前!免許書破けて燃やしてるやないか!

あああああ… しまった…。 そうなのである。
松原は以前、某ニューロティカというバンドのドラムさんに打ち上げで破かれてライターで炙られていたのだ…
どういう事や!これはな!国から借りているもんなんや!免許書はお前のものじゃない!それを破いて燃やすなんて言語道断!
剣呑を感じた僕は急いで言い訳をするが聞く耳持たず。
しぶしぶ席に戻った僕を取り囲むのは周囲の哀れむ視線。

「あの人、免許書燃やしてるねんて。あほちゃう」

後ろの席の女性の声が沈黙の会場にポツリと落とされ,その波紋は皆のクスクス笑いとして広がっていく。
ああ…なんて事だ…。
免許書というライセンス取消を免れる為に参上したこの聴聞会でまさか警官に怒鳴られ恥をさらされ、参加自体がナンセンス…
無常にも残り20人程の処分者の言い訳をその席で聞きながら、時折挟まれる

「お前の免許は綺麗やな」

的な皮肉に心をえぐられ、 最後に名前確認で「ゆたか(裕)」という字の確認に提示した僕の名刺は

「NO LICENSE RECORDS」

文字通りとなった。

-2007/09/05 update-