83杯目「この世はでっかい宝島」

先日TSUTAYAでビデオを借りようと並んでいたら前のおじさんがアドルトビデオを三本借りようとしていた。

店員「返却はいつになさいますか?」
おじさん「当日で」 
店員「はい、当日ですね… 当日!?と、当日ですか?」

マジで店員が一瞬“素”になっていたよ。
チュース!松原デス。
世の中にはホントに凄い人はいるもんですね。
このおじさんの表情は一点の曇りなく凛として佇んでいた。
もはや松原の中でTSUTAYAに光臨したヒーローに見えたのです。
やはりいつの時代にもヒーローというのは必要なものであって、こんな時代だからこそ自分の中のヒーローを追い求めて欲しいと思う訳です。

そんなヒーローで思い出した小学生の頃のお話を今日は少々。

このコラムに何度か出てきた事のあるO島君(本名を前回出して書いてたら本人から10年ぶりに苦情の電話がお店にかかってきたのでイニシャルで表記させていただきます。)の有名な話である。
やはり小学生の高学年ごろになってくるとどこの学校でもそうだと思うが運動神経のいい人間ももちろんだが、
男前よりもやっぱり男女問わずクラスのヒーローになるのは“無茶をする奴”だった。

所謂バンド業界用語で言う「パンチのある奴」である。

例えば給食でスイカが出ると、限界まで食う挑戦が始まり白い部分まで食ってた奴がヒーローとなるが、
その後に皮まで食った奴が登場!
前者は僅か数秒でヒーローの座を奪われる事になる 。

そんな風に誰が一番“パンチ”があるかの勝負が毎回給食の時間に行われていた。

そんなある日、給食に「ゆで卵」が出た。これはパンチを出しやすい回である。
カレーの日などは最悪だが、このゆで卵なら松原にもチャンスがある!
そんな名声欲が人一倍長けている松原は今日こそヒーローになろうと「殻ごと喰ってやる!」と言い放ち、
殻ごとバリバリと食してやった。

やはりクラスのみんなは栄光を讃える。

しかし、そんなことは他のクラスメートも楽々クリアーして次のステップに進んでしまったのだ!!
コレはヤバい!!何か一気呵成のマンモスパンチが必要だ…!
そしてひらめいたのは禁断の技である。

「俺は噛まないで飲み込むぜ!」と言って丸ごと飲み込んでやったのだ。

これは誰も真似出来まい!クラスの視線は松原に集中し、今日のヒーローもはや松原で間違いない!
そんな空気が教室を充満し始めたその瞬間!
ここで登場するのがO島君である!
彼も虎視眈々と狙っていたのであろう。

「俺も出来るで!」

そう口を開くと同時にゆで卵をそのまま丸呑みしたのだ。

先程の松原の栄光はまるで全盛期にはチヤホヤされていたビデオデッキの様に過去産物と風化し、
次の再生機を我先にと開発するメーカーの如くクラスの男子がゆで卵を見つめ研究する。
しかしゆで卵ではもはや限界がある。

誰もがそう気付き、今日のヒーローは不在で終わろうとしたその世紀末の瞬間!

O島君が黒板の前の机に用意されていたゆで卵に付けるアジシオの瓶を優勝カップの様に掲げ、

「俺なんて、このアジシオを一気しちゃうもんね!」

と叫び、内蓋を外し、アジシオを一気に飲み込んだのだ!
後日談だが「焼けるように喉が熱かった」とO島君が、松原だけに涙目で教えてくれた。

そんなO島くんは顔を真っ赤にしながらアジシオをほぼ飲み干し、
慌てて牛乳で流し込む苦しそうな姿と勇気にクラスメート全員はスタンディングで賛辞を送ったのだった。

そして今日のヒーローになれたO島くんの涙はダイヤモンドの様に教室の床に零れ落ちる。

そんなO島君の余韻に浸る5時間目の授業中。

隣りの席のO島君が様子がおかしい。
急に体が震えだしている。どうやら具合が悪るそうだ。

「大丈夫?保健室行く?」
そう問いかけると

「ヒーローが保健室に行くのはまずい」
と呟き、我慢をして椅子に座り続けるのであった。

しかし確実に顔色が悪い。
これは友人としてと助けなければ!

「先生、O島君が…」

席を立ち先生に訴えかけたその瞬間。

なんと!

隣りのO島君が机の上に吐き出したのだ!

「キャーーーーー!!!!!」

女子の悲鳴が廊下を反響してより深みを増してこだます。
「最悪や!!!」慌ててO島君をトイレに連れて行こうと肩を抱え、立たせた瞬間!

みんなの前で先程丸呑みしたばかりのゆで卵がネバネバとした胃液と共に丸ごとゴロンと飛び出してきたのだ!!

ほんと数秒前までのヒーローは一瞬にして地に落ち、それから卒業まで彼はヒーローとは無縁のまま、
あだ名が「ピッコロ大魔王」になったのであった。

-2011/10/06 update-