コラム「人生打ち上げかけつけ」

松原裕 コラム

2005年より13年間1ヶ月も休まずに連載を続けている太陽と虎代表 松原裕のマンスリーコラム。

人生とは打ち上げのように激しく乱れて華やかに散る。
ならばかけつけイッキで酔ったもの勝ち。

そんな日々起こる不可思議で愉快な体験を綴る太陽と虎マンスリーコラムスケジュール誌に連載中のかけつけコラムWEB版。

笑いをアテに何杯でもイッキしてください。

※本コラムは本人が「がん」を理由に2016年10月を持って休載しておりますが、「絶対休む機会を探していて「がん」になって「よっしゃ!これや!」と思ったに違いない。」「連載が始まって13年間140話以上書き続けてネタ切れになったんじゃないですかね?」関係者談。
「そ、そんなわけないやん!ネタが溢れて溺れそうやわ!ただ体調が…。」本人談。

という事で2016年10月より、体調が良い時にWEB版のみ更新する不定期連載になりましたので、テレビの裏面を掃除するぐらいの頻度でこのページも覗いてくださいね。

123杯目 「コントとの戦い」

みんな聞いて、聞いてー!!
松原は11/26に発売されたCD「JAPANESE KATANA Soundtrack」のレコ発ライブ東名阪にてコントライブをやって来たんだよ~。

え?何それ?という方に簡単に概要を説明しよう!

そう!あのHi-StandardでありBBQ CHIKENSの横山健監督がメガホンを取ったJAPANESE KATANAという架空のヤクザ映画。
その映画のSoundtrackという設定でCDがリリースされた訳なんです!斬新だね!
そしてその作品の中でなんと!あなたの松原が役者として映画のシーン(ラジオドラマ的な感じ)とコントで収録されているのですよ。驚きだね!(詳しくはHP http://www.pizzaofdeath.com/japanesekatana/ を検索)

そしてそのCDのリリース記念ライブが東名阪の3か所にて行われ、そこで当然、松原は収録アーティストwとして20分(3か所全部新ネタ)TOTAL1時間のネタを行ってきました訳です。驚きだね!

「ってか松原って誰やねん!」

そんな中で行われる誰も求めていない20分のネタ…。

全会場500人以上の満員御礼。
だがお客さんはもちろん、松原さえも望んでいないこの20分は一体誰が幸せになるのか?

毎晩、爽快に鬱状態となりながら考えたネタ。
映像、サンプラー、小道具、大道具などを駆使したネタたち。
はたして一体、松原は何を行ったのか?
そんな声が多くは無いがゼロでは無いのでこの場を借りて簡単にセットリスト(内容)を公演別にご紹介~!

■12/2恵比寿リキッドリーム
①影アナ
②テレフォンショッキング(笑っていいともに松原が出演したという設定でエアタモリに向かって映画の撮影秘話や共演者とのエピソードトークを1人で行うネタ。そして最後はタモリさんから映画の未公開コントをやるように無茶ブリ)
③ネタ(立てこもった犯人を犯人のお母さんが説得するコント。)
④ネタ2(立てこもりコント2で犯人が逃走用の車をありったけのスベらない話を要求して来て、スベらない話をひたすらする)
【会場のウケた量】☆☆☆★★

■12/15心斎橋クラブクアトロ
①オープニング映像
②フリートーク(東京公演ではネタをキメキメで場の空気に合わせれず苦戦した反省を活かして、フリートークから始める)
③誰やねん誰やねんコント(リズムギャグを使った自虐ネタ)
④ダイブ強化週間キャンペーン(今回刑事役という事でダイブで怪我や事故が無い様にダイブの練習をする前振り)
⑤大玉転がし(ダイブして来た人を運ぶ練習として、マジで大玉をレンタルしてきてフロアに投げ込み、観客全員で大玉転がしをする。)
⑥モグラ叩き(次はダイブする練習でお客さんみんなにステージに向かってダイブして来てもらいドラムセットの上にあるDSを取ったらプレゼント。でもステージの上で松原はハリセンでダイブして来た人を叩いて、叩かれたら客席に戻るというモグラ叩きゲーム。でも最終的にグチャグチャのカオス状態になって松原は客席に引き込まれてボコボコになって終了w)
【会場のウケた量】☆☆★★★

■12/16名古屋クラブクアトロ
①影アナ
②ガサ入れネタ(ライブハウスにガサ入れに来た刑事の設定で客イジリ)
③組長を探せ(映画の設定の中で登場する組長をダッチワイフに見立ててダッチワイフを客席に投げて遊ぶネタ)
④強い奴を探せゲーム(客を5人ステージに上げてストッキングを被せて引っ張り合いをさせて変顔をイジる。)
⑤感謝の手紙(全出演者に向けた感謝の手紙。内容は感謝してる風だけど皮肉たっぷりのネタ。最後はお客さんへの皮肉ネタで野次の応酬の中、無視して終了)
【会場のウケた量】☆★★★★

以上!こんな内容で全60分のセットリスト。
毎晩不安で眠れず、ドンキホーテで1万円以上小道具という安心を買い続ける精神状態で過ごした恐怖の3日間。
でもお蔭でせっかくやるのだからとネタで販売した松原Tシャツとマツバラーターはまさかの完売。
ようやく最終日を終え、打ち上げでベロベロになり家に帰宅。
極度の緊張から解放されたのもあり、そのまま玄関で眠ってしまう。
ようやく手にした安定した睡眠。
そして目が覚めると毛布がかかっている。
恐らく母親がかけてくれたのであろう。

優しい母の愛を感じ、起き上がると恐らく帰るなり投げ出した鞄の中身も片づけてくれている。
母への感謝を胸に部屋に戻ると扉の前に綺麗に畳まれた松原Tシャツと昨日使用したネタの備品がその横に綺麗に置かれていた…。

眩暈が襲い膝から崩れおちる。
また精神が病み、眠れない日々が続く予感。
そう、母は一体どう思ったのであろう。自分のTシャツを作っている息子を…。

そしてダッチワイフとストッキングを持っている息子を…。

122杯目 「笑ってはいけない警察署72時以上」

二度ある事は三度ある。先日この言葉を実体験する事件が松原を襲った。
まず最初の事件は、とある週末、夜中黙々と仕事をしていると弊社スタッフが慌てて事務所に飛び込んできた。

「店の横で何か燃えてます!」
「ど、どうこと!!?」

松原も急いで太陽と虎に駆け寄ると、なんと!
隣りの工作所さんから火の手が上がっているではないか!?
しかもかなりの勢いで燃えている…。

大至急消防に電話をして、駆けつけた救急車。
10分程の消火活動を寒空の中で見守り、そこからは通報&発見者として警察に連れていかれ諸々事情聴取を受ける事になる。
通報しただけなのにまるで疑われているぐらい身元も調べられ、深夜3時ごろに解放。

なんかついてない…。

苛立ちの種火を残しながら翌日は外現場での仕事。
朝から1日業務をこなし、打ち上げへ向かう。
そして支払をしようと財布を鞄から取り出そうとすると…

「え!?」

鞄に入ってるはずの財布が無いでは無いか!
鞄に入れていたので落とす訳は無い!
念のため色々電話で確認するが、そもそも15時ぐらいに使ってから鞄にしまって、一度も取り出していない。

これは間違いなく盗難かスリ!

急いで警察に向かい盗難届を提出。
そしてこまかく事情聴取を受ける。
昨日に引き続き同じ警察に行く事になるとは思わず、財布を無くしたショックも合わさり、鬱寸前。

翌日、カードを止めたり、再発行を行ったりと大忙し。
そんな悲しみに耐えながら仕事をこなして打ち上げへ向かう。

打ち上げでは、もちろんヤケ酒である。
失くした財布を偲び、ベロベロになるまで酒を浴びて3時ごろにお開き。
気分も良くなり気持ちよく自宅へ帰ろうと自転車にまたがる。
打ち上げ会場から1,2分自転車を走らせ東急ハンズを超えたあたりでまた悲劇が松原を襲う。
酒に酔った松原は少しバランスを崩してしまい、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ通行人の肩にぶつかってしまったのだ…。

するとその男性は「イッテーナ!!」say。

超ガラの悪そうな人では無いか!?
松原は普段なら土下座して謝る所だが運悪く、酒でベロベロ状態。

「ちょっとぶつかっただけやんけ!」と応戦してしまう。

そこからは言い合いとなり、ぶつかった強面の冷静な連れが警察へ通報。
7~8人ぐらいの警察官が松原と強面を囲い込み、そこから簡単な事情聴取と本当に車の事故と同じぐらいの大がかりな検証…。

「え?自転車でぶつかっただけなのに?」

松原は警察官の大げささに詰め寄るが
「これも事故です。しかもあなたは酒気帯び運転となります。」
と無表情で答えられ、チョークを使って黙々と事故検証が行われる。

そして現場検証が終わると松原はそのまま、また警察署に連れていかれて事情聴取を行う事になる。

ほんとに肩がちょっとブツかっただけなのに、なんか凄い事になってしまっている…。
確かに酒を飲んで運転した松原は100%悪いけど、警察官のみなさんも絶対今、ちょっと心の中で笑ってるに違いない。
もはや小さい事を大げさに扱うコント状態!
松原も思わず笑ってしまうのはしょうがない。

そしてアルコール度数検査や、まっすぐ歩けるかなどのチェックをされ、ようやく5時ごろに警察署を出る事になる。

3日連続の警察署。

そろそろ顔見知りになるクラスである。
ようやく自宅に戻り、布団に入った瞬間に電話が鳴る。

「どうも〇〇署の〇〇です。さっき身分証明で預かった保険証を返し忘れてまして…今からご自宅にお持ちしましょうか?」

いや、何時やと思ってるねん!もうええわ!
というツッコミを我慢して「いや、もう明日でいいです。」
と丁寧に返答すると

「では明日、署にてお待ちしております。」

ってまた明日も行かなあかんのかーーーーーーい!?

121杯目 「美容師の復讐」

今年もいっぱい台風が日本を襲っておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
神戸に咲く一輪の薔薇・松原です。
しかし台風はいいですね。進路が決まってて。
松原も学生時代は進路に迷い、のりで働き始めたこの音楽業界も15年目に突入。
15年前からライブハウスをやっている訳なので今まで出会ったバンドの数は天文学的な数字になっているはず。
たまに行ったお店とか仕事先でも

「覚えてます?〇〇ってバンドをやっていた〇〇です!」

なんて声をかけられる事も本当に多くなっております。
そんな先日も打ち合わせの合間に小一時間の隙間があり、ふと髪の毛を切ろうと思い立った。
軽くネットで近くの美容室を検索。
早速電話すると「今からならいけますよ」say。

初めての美容室はちょっと緊張するがこのチャンスに髪を切らないといついけるか解らない。
勇気を出してオシャレな美容室の扉を開ける。
イルカの一家がなんとか泳ぎ回れるぐらいのこじんまりした店内の美容室だが雰囲気はとてもいい。
早速席に案内され、30代中盤ぐらいのさすが美容師というオシャレは髪形の男性が松原の背後に到着し、鏡越しに笑顔で挨拶をしてくれた。

「今日はどのように致しましょうか?」
「あ、あんまり時間無いのでパっと適当に切っちゃってください。」
「適当にですか?どれぐらい切りましょうか?」
「う~ん。お任せします!」
「かしこまりました。」

そんなやりとりの終え、早速、よく手入れされたハサミが松原の髪の毛の中に手際よく入っていく。
そしてまもなくして美容師が話しかけてくる。

「音楽関係のお仕事ですか?」

松原の事は知らない様子なのでとりあえず

「まーそんな所ですね。」

と答えておく。

「僕も15年前ぐらいにちょっとバンドやってまして。」

美容師で元バンドマンは結構多い。
別に驚く事では無い。
適当に相槌を打っているととても懐かしい話に突入する。

「僕、パインフィールズってライブハウスが好きでよく行ってました。」

そう、何を隠そう松原が15年前に初めて店長を務めたライブハウスなのだ!
なんか急に嬉しくなり何を見に来たか尋ねてみる。

「なんか丸刈りデスマッチってイベントありましたよね?」

そう!15年前松原が発案したイベントで6バンドが出演し集客が一番少なかったバンドが丸刈りになるという今ではPTAですぐ問題になりそうな画期的なイベントなのだ。
益々嬉しくなり会話が弾む。

「そのイベント、知ってくれてるのは嬉しいな~!なんたって丸刈りにする瞬間が凄い盛り上がるんですよ!みんなハゲになりたくないから集客を頑張るから毎回満員な当たりイベントでしたからね!」

松原の悪い癖ですぐ武勇伝っぽく語ってしまう。
その丸刈りになったバンドマンのリアクションを笑いながら巧みに説明する。
すると笑ってくれるのでは無く、

「でもその丸刈りになった子、可愛そうですね。」

というノリの悪い反応。
なんか肩すかしをくらったような気分になったその瞬間、その丸刈りになった奴の顔をうっすら思いだし、かなり怒っていた記憶が蘇った。

「そうっすね、でも今思いだしたけどそのハゲ、結構怒ってた記憶がありますねー。今でもボクの事、恨んでるかも(笑)」

そう答えて笑いながら鏡越しに美容師を覗くと、今度は無表情で松原を見ているではないか。

「あれ?どしたんですか?」

その問いにゆっくりと彼は答える。

「覚えてません?」

急にデパートのエレベーターの中みたいに不思議な沈黙と緊張が松原にのしかかり、嫌な予感が的中する。

「そのハゲ、僕ですよ。」

さっきまで流れていた店内のBGMが聞こえなくなり美容師が耳元でこう囁く。

「ヘアスタイルはお任せで大丈夫ですか?」

120杯目 「盗撮は犯罪デス!」

目まぐるしい日進月歩で進む近代化。そこに反比例して、日本人としてのアイデンティティーが失われていくような気がして少し寂しい松原がお送りするこの大人気コラム。
横文字が氾濫し、カタカナが横行するこの社会。普及し続ける携帯電話キャリアにも原因がある。
顔を見て話す事を忘れ、メール文化へ。携帯電話を使った犯罪も増加を辿り、カメラ機能に始まり、無意味な機能がこぞって開発されこの携帯電話は果たして我々にとってプラスなのかマイナスなのか??

そんな事を考えながら東京出張で立ち寄った池袋駅。
打合せを経てこのまま神戸に帰ろうと改札に差し掛かった時!
激しい怒号が松原の鼓膜に響く。

「お前、携帯を出せ!」
「なんでだよ!離せよ!」

こんなやりとりがいきなり松原の横で行われ、男性2人が取っ組み合いをしている。
好青年な大学生風の男が華奢で如何にも根暗な男の手をひっぱり、携帯電話を奪おうとしているではないか!
何事かと思い、眺めていると行きかう通行人や野次馬が集まり2人を囲むサークルが完成。
その円の中心である2人の取っ組み合いはどんどん激しくなり、もはや華奢な彼のTシャツはヨレヨレになっていた。

「お前が盗撮してたのは見てたんだ!早くその携帯を出せ!」
「知らないって、離せよぉぉぉ」

どうやら華奢な彼は携帯で盗撮をして、それを見た好青年が捕まえようとしている事が理解出来た。
するとかなりガタイのいい男性もそのやりとりに加わり、激しく抵抗する華奢君のTシャツを掴み、振り回しだした。

柔道でもやっているのかの如く、匠みに華奢君を投げ飛ばし、羽交い絞めにし出した。
好青年君は前線から離れ、息を整えながらその攻防を見守る。
柔道君はどんどん技を決めていき、殴りはしないがダメージを華奢君に与えていく。

両者とも顔を真っ赤に、かなり興奮した様子である。
その光景に周囲の女性は悲鳴をあげ、構内はパニックに陥る。

松原はもう目が離せなくなり柔道君と一緒に華奢君を取り押さえる事にした。
華奢君は華奢なくせに火事場のクソ力で抵抗を見せ、逃げ切ろうとする。
もう何語か解らない奇声を発し続けて、ちょっと怖くなる。

そして遂に柔道君の寝技から抜け出したのだ!

慌てて松原が華奢君のTシャツを掴んだらTシャツからスルリと抜け出し、上半身裸の状態に。
しかし柔道君は体制を立て直しまた華奢君に飛び付いた!

もう凄い光景である。

柔道君のシャツもほぼボタンが外れ、両者上半身裸状態である。
こんな事を言うと不謹慎であるが「超オモシロイ光景」である。
思わずこの光景を収めたくなり、携帯電話でこの2人を撮影!

凄い写真が撮れた。

これはいい話のネタだと思った瞬間!人混みの壁から警察官数名登場し無事、華奢君はお縄となる。
好青年君が連行される華奢君に「盗撮は犯罪だぞ!」と怒りあらわに叫ぶ。

最近の青年も捨てた物じゃないと感心し、一部始終を見届る。

そして一安心で改札を潜る松原。

盗撮とは本当に許すべき行為!
相手の許可なく撮影する行為は悪であり、この携帯電話で気軽に撮影できるという事も問題である。
盗撮という不法行為について考えながら電車に乗り込み、改めて携帯に写った上半身裸の男性達の凄まじい写真を見なおす。

するとふとある不安に襲われる。

いや、そんな事は無い。

いや、…でももしかしたら。
盗撮への怒りの量だけ不安が圧し掛かり怖くなり、自問してみる事にする。

「その…この上半身ほぼ裸の男2人の写真も…盗撮になる?」
ほぼ満員で混雑した車内。

さっきまで聞こえていた雑踏は急に聞こえなくなり、好青年君の「盗撮は犯罪だぞ!」という言葉だけが松原の中で何度も繰り返される…。

119杯目 「戦後最大の事務所大混乱」

昨今、我々が住む地球は近代化が進み自然との触れ合いなど皆無に近い時間が流れている。
もう我々の祖先が住んだ世界とはかけ離れたものであり、
そんな便利を手に入れた我々は、その変わりに困難な地球規模の課題に直面しています。
環境破壊、人権侵害、感染症など書ききれない問題を抱えている訳です。

そんな松原が住む神戸…
いや、働くこの太陽と虎の事務所にて、遂に生死に関わる地球規模の問題が発生したのです。

そうそれはとある夜。
いつもの様に事務所でスタッフ数名はデスクワークを行っていた。
夕食も終え、業務も佳境な確か21時ごろ。
熱心に仕事に励む我々の事務所ではキーボードを叩く音だけが忙しく空間を駆け回っている。
そこに突然!

「ギャヤヤヤァァァアァ」

デスクの女史が入社以来、聞いた事の無い声で叫びだした。
事務所内のスタッフは慌てて彼女に視線を移すと、
まるで絵具を被った様に真っ青な顔で逃げ回りながらこう叫んだ!

「む、ムカデ!!!」

そのキーワードに全スタッフは血の気が引く。
そして松原は哺乳類以外の存在を一切認めていないのでムカデなんていう節足動物は爪楊枝を取り出した後の爪楊枝の袋より価値が無い!

慌ててソファーの上へ避難する。

しかしデスクの彼女の近くに居た数名のスタッフはその姿を目撃する。
気持ち悪さにみなが叫び、恐れる。
なんと体長10cmは優にある巨大ムカデらしい。

「うわー!」「デカッ!」「ギャァァ」

叫び声が事務所内のあらゆる所から飛び交い、
戦後一番の大混乱がまさかこの事務所で起こっている。

そしてそのムカデは我々の集合したテーブルの下へ逃げて見えなくなる。

ここからがとんでもない恐怖との戦いの始まりだ。

姿は発見出来ないが確実にこの事務所に奴はいる。
事務所内の構造は部屋の真ん中に8個のテーブルが向かい合ってレイアウトされているのでその下に隠れたという事は外に出る事は不可能なのだ。
カオスを化した社内。

まずはこのムカデがどんな奴なのかをネットで検索する事する。
目撃したスタッフが検索し、遂に同じムカデを発見する。

そして説明を読みあげる。

【狂暴であり、触れたものには手当たりしだいに噛み付く。噛まれると痛みと痺れが強い。そして体質によりアナフィラキシーショックを発症する事もあり、噛まれた場合には速やかに医師の診察を受けることが望ましい。】との事。

「噛まれたら痺れるんか…死ぬ事は無いみたい」
その言葉で少し安堵が生まれる。

ただ「アナフィラキシーショックってなに?」

この言葉に再びwikipediaで検索をする。

【アナフィラキシーとは急性の全身性かつ重度なI型過敏症のアレルギー反応の一つ。ほんの僅かなアレルゲンが生死に関わるアナフィラキシー反応を引き起こすことがある。】

キャァァァァァァ!!し、し、死ぬことがあんの!?
そこからは無人島で1人乗りの船を奪い合うかの様に誰が退治するかを決める醜い争いが始まり、
2時間かけて大詮索するが見つからず、しょうがないので我々が死にそうになるぐらい事務所内に殺虫剤をふりまくる。

さすがに死んだと思いつつ、しかしその死顔を看取らない以上、気が気ではない。
事務所機能は完全に停止し、全員椅子の上で正座の状態で業務をし始めるが、
誰かがペンを落としただけでその音に全員が反応する状態。
結局それ以降1週間経ってもムカデは発見されず謎と未だに消えぬ恐怖を味わいながら業務をする状態…。
そうこのコラムさえも今、松原は椅子の上で正座をしながら書いているのである。

ムカデに噛まれる事を恐れ正座で何時間も業務を行う日々。
そして今…もう噛まれた方がマシでは無いかと思えるほど足が痺れている。

118杯目 「ネーミングセンス」

関西人の90%は「ホテルニューアワジ」を普通の発音で発声出来ないよね?
「ホテル」まではいけても「ニュゥ~♪アーワージィ~♪」になってしまうよね。

そんな関西人あるあるから始まりました今回の松原コラム。

こういうリズムとメロディーにハマった商品名や店名は皆様の脳内にこびり付き、末永く覚えてもらえる訳です。
そんな弊社の店名も「太陽と虎」「とらうま製作所」「どんぐり山」「UMI」などコンセプトとクセを大事にしているのですが、
ネーミングセンスがズバ抜けている企業が1社、日本にあるのはご存じでよね?

そうです!
その通り!みんな大好き!

小林製薬ですね。

最高峰の作品はやっぱりなんといっても【ブルーレットおくだけ】です!

冒頭でもあった通り、
「ブルーレットおくだけ♪」
はあのCMのメロディーがこびり付いて98%の日本人は普通に発音出来ないはず。
絶対「ブルー」あたりからメロディーに乗ってしまい「おくだけ」にはスタッカートが入るはず。

そしてもう1つの最高傑作!

それは【熱さまシート】ですね。
一瞬で商品の内容が分かるバツグンのセンス。
使った事ない人いるの?ぐらいの教科書レベルの知名度!

他にも【トイレその後に】【チン!してふくだけ 】など分かり易いし、語呂もいい。

改めてこのシンプルかつ明解度は高く評価すべきですね。

個人的に好きなのは【キズアワワ】  。
泡で傷口を消毒する画期的かつ、その先進的アイデアを敢えて!
ワザと、かき消すチープなネーミング。
商品史上最高の恥ずかしがり屋である。

この控えめな思いはユーザーの胸に届き、評価されているに違いない。

…しかし大好きだった小林製薬はこの才能を徐々に良くない方向へと移していく。

上記で紹介した商品は今まで恐らく会議室で役員や社員全員が「こうでもない」「こうした方が分かり易い」などと議論してきたのであろう。
しかしこのヒット商品で売り上げた莫大な資金を使いきれずネーミング会議を恐らく!
居酒屋か料亭でで宴会しながら決めていったとしか考えられない商品名がここから登場していく。

お腹のガスたまりを解消する商品として【ガスピタン】。
確実に酒の席で誰かの悪ノリネーミングに爆笑して決められたとしか思えないネーミング。

【電気ケトル洗浄中 】なんて語呂絶対悪いし!
朝方までネーミングが決まらなく、誰かが
「【ポット洗浄中】があるんだからもう【電気ケトル洗浄中 】で良くないすか?」

みんな眠たいし、面倒臭くなって「ほんまやな」とかになったに違いない!
なんと安直な…

あのセンスはどうした!小林製薬!
これだってそうだ!肩こりの内服薬【コリホグス】。
もう考えた形跡がどこにも見当たらない。
真冬に朝起きて窓を開けて見える雪景色と同じく足跡の無い真っ白さである。

そして極め付けは扁桃周囲炎の薬【のどぬ〜るガラゴック】。

分かり易いけど、もうネーミングセンスはギャグ漫画の世界にまで足を踏み入れている。
これを買いに行くが、薬局で見つからず、レジで問い合わせる消費者の気持ちなど無為無策である。
しかしもっと膝から崩れ落ちた商品がある。

店頭で発見した時は、まるで裏切られたかの様な気持ちになってしまった商品名。

それはスマートフォン画面の汚れをスッキリ落とす専用クリーナー
【スマートフォンふきふき】 。

完全にフザけているのか、それとも社長が孫に相談したのか?
大企業がここまで消費者をバカにするとは誰が予想出来たであろう。
もうこの発想でいいのなら極論、小林製薬がライブハウスを作ったら「ライブ見る見る」にするのか?
一体小林製薬に何があったのだろう。
こんな商品名ではスマホの汚れどころか、このコラムさえオチそうにない…。

117杯目 「便利な便器」

こんなに気がau人はDOCOMOおらへんからいつでもWILLCOM!

…という訳でsoftbankを無視した携帯メーカーダジャレで始まりました松原の痛快コラムのお時間です。
お相手はもちろん松原です。
そんな松原は先日遂にメデタク誕生日を迎えアラフォー35 歳へと成長を遂げたという事で弊社の35歳から受ける事が出来る健康診断にやっといける事になりました~!
年上の従業員は毎年楽しそうに健康診断結果を発表し合い、
奥歯を噛みしめ続けたこの数年、念願の健康診断!
しかし楽しみだったはずのこの健康診断で驚く事態に陥る…。

戦後様々な諸先輩たちが築き上げた自由の国・日本では考えられない命令が下されたのだ。

“前日の21 時から断食”

これは近代私法の三大原則に反する自由の尊厳。
酒が飲めないなんてストレスが倒れそうになる。
しかしそんな事を訴えても「じゃー健康診断来なくていいです。」
という回答が見え見えなので、仕方無く前日の20 時55 分まで飲めるだけの酒を飲んで、潰れるように睡眠。
そしてほぼ二日酔いで起床。
そしてまた命令が1つ下されている。

「検便」だ。

なんという屈辱。
自分の排泄物を紡ぎ取り、人前に提出するという破廉恥極まりないストレス行為。

…と訴えても前述の通りなのでベッドから飛び降り、リビングのトイレで用を足す。
そして立ち上がり便器の中にあるさっきまで図々しく体内に居たホカホカのブツを見下ろす。
普段から気持ち悪いので全く見ない松原は吐き気を催し、ゾっとする。
その上、コレに検便の棒を刺さないといけないのだ…。
考えられない罰ゲームである。

しかし、しょうがないので渡された検便の棒を突き刺そうとした瞬間!!!!

な、なんと!

便器が「ウイーン」と音を出して洗浄を始めたのだ…。
そ、そうなのだ…!
実は松原の家のトイレは無駄にハイテクで便座から離れて数秒後に勝手に水を流して洗浄を始めるのだ!

「わぁぁぁぁ!ちょ、待って!行かないでくれぇぇぇぇ」

自分の排泄物を呼びとめた人間が過去居ただろうか?
そんな松原の声にも振り向かずウン〇は颯爽と荷物を持って実家へ帰る嫁の如く、立ち去っていく。
不思議と涙は出ない。
むしろ苛立ち、ストレス全快。
嫁に逃げられた旦那が酒に狂う気持ちが少しわかる。

しかしこれはウン命だったのだ。
「次のウン〇を待とう!」

そう決意するも、さすがにもう便意はやってこない。
どんなに頑張ってもやってこない。
時はこちらの都合など気にせず残酷に刻んでいく。
遂に病院に行く時間になってしまう。
検便を忘れた松原にどんな仕打ちが襲ってくるのであろう。
空腹とストレスで胃が悲鳴を上げる。
それこそ体調不良でキャンセルしようかと考えるが、勇気を出して恐る恐る病院へ。
受付の看護婦さんに事情を伝える事に。

「実は僕の家は自動で洗浄される便器でして…そのアレが勝手に流れていってしまって…」

内容はフザけているが松原の深刻さに背丈を合わせて親切に答えてくれる看護婦さん。

「では検便だけ明日必ず持ってきてくださいね。」
怒られると思っていた松原にとって優しい言葉は身に染み渡る。
熱い気持ちになり「絶対明日検便を持って来ます!」と固い約束を交わす。

そして翌日、起床してトイレに駆け込む。
便座に座りながら昨日の看護婦さんとの約束を思い出し、排便を終える。
これで後は検便棒を差し込むだけである。
これを差し込めば、あの看護婦さんの喜ぶ顔が見れるのだ。
さぁ、遂に!検便棒を突き刺そうとした瞬間!

「ウイーン」

…し、しまった!!!

それから数分間、何も考えられず綺麗になった便器を見つめ佇む松原。
来年の健康診断の前にストレスで体を壊しそうである。

116杯目 「足下を救われる」

どうも!兵庫県忙しい奴ランキング5位(推定)松原デス!
そんな松原は始発6時の新幹線で東京出張なんてザラ。
先日も4時ぐらいまで激しい打ち上げをして、ほぼ眠らず新神戸駅から新幹線にライドーン!

二日酔い…というかまだ完全に酔ってる状態で眠りの中に腰を下す。

片道約3時間、起きたら東京というワープ状態を想定し、品川駅到着時間にiPhoneのアラームを設定する素晴らしい周到さ。

打ち合わせの時間に間に合う為には寝過ごして東京駅まで行く訳には行かない。
なんとしても品川駅で降りなければいけない。
大事な打ち合わせなのだ。
だからこそこの3時間はしっかり眠らなければいけない。
快適な睡眠を取る為に靴を座席の下に置き、ビニールを床に轢いて足を伸ばし、リクライニングには恨みは無いが親の仇の様に力強く倒す。

この環境で出来る最大限の事をやり尽くし、ようやく重い瞼を閉じる。

そして数時間後。

パっと目を覚ますと新幹線はどこかの駅に停車していた。

体感睡眠時間は1時間程度、「まだ名古屋とかかな~」とiPhoneのアラームを止めて、また眠りに着く。
少しでも眠らないと仕事に影響があるのでこちらも必死である。
品川駅に着いたらアラームが鳴るのでそれま…

え…?

あれ?…
ア、アラーム!?

ちょ、さっきアラーム鳴ってたやん!?!?

光より早く瞼を開けて外を見ると冷酷な顔で「品川駅」の看板がこちらを見ている。

うわぁぁぁ!!!やばい!!

慌てて、カバンを持って座席を飛び跳ねる。
車内は出発のブザーが鳴り響き、必死で扉が閉まる寸前の新幹線から脱出に成功する。
九死に一生とはこの事である。
東京駅まで行ってしまったら打ち合わせの時刻に遅刻してしまう所だった。

やはり松原は運に恵まれている。

すっかり目が覚めた松原は駅のホームから改札口へ向かう。

が、そこで違和感を感じる。
この違和感は足元からだ。

慌てて見下ろすと、

なんと今!

松原は靴下しか履いていないでは無いか!?

あぁ!靴は新幹線の座席に下だ!

とんでもない失態…。

靴下だけでホームに佇む松原。
すぐさま靴下原は駅員に相談する事に。

「すみません、靴を新幹線の中に忘れてしまって…」
「く、靴!?」

もし松原が靴を履いた完全な状態であれば間違いなくJR東日本のこいつを蹴っているぐらいバカにしたリアクション。
しかし靴下野郎にそんな力も権利も無い。

「そうなんです。靴が無いと大変なので取りに行きたいのですが…」
「…そうですよね。では列車に確認しますので乗車券はお持ちですか?」
「はい。」

ポケットをまさぐるが乗車券は入っていない。

あれ?そ…そうだ!乗車券は窓の所に置いてたんだ!

「すみません、乗車券も忘れました。」

遂に駅員をおちょくってると思われてもしょうがない状況が完成する。

「乗車券もですか?」
駅員の顔はスケートリンクの上に靴下でいるぐらいの冷たさである。

「は、はい。すみません。」
「はぁ…では靴下で申し訳ないですが駅員室までご足労頂けますか?」

文字通り足元を見てきた駅員に案内され、駅員室内の全員の前で再度事情を説明させられる辱めを受ける。
そして靴下野郎にスリッパを恵んでもらい東京駅で松原の靴と乗車券を確保してもらう。
そして靴下からスリッパへ成長した松原は次の新幹線で東京駅まで向かい、遂に靴を取り戻したのだ。

もちろんこの後の打合せは遅刻し、気まずい思いをしたが、靴下姿でホームに佇んでいたあの辛さと比べると足下にも及ばない。
靴の大事さを痛感すると共にJR東日本がいなかったら今頃靴下のままである。
本当に今回は彼らに足元を救われましたね!

※【足元をすくわれる】意味:意表を突かれるさまなどを意味する表現。

115杯目 「ぼくのお尻」

ライブハウスを生業としている松原は中々朝の通勤ラッシュに乗る事は少ない。
しかし先日とある学校の新入生ガイダンスをするために通勤ラッシュの電車に乗り、大阪に向かう事となった。
眠気と戦いながら神戸駅から電車に乗り込みギュウギュウの車内でストレスを分泌させまくっていた。
生徒のみなさんの前で喋るという事で小奇麗な服装に身を包み余計にストレスを増長させる。
そんな苦痛を感じている松原に突然!
…長い人生でも経験した事の無いとんでもない感触が襲ってきた。

一瞬何が起こったのか理解出来ない…

その感触はお尻から遠い回り道をして脳細胞に辿り着く。

「ムギュ。むにゅむにゅ」

…程よく熱い車内で寒気が走る。

ま、まさか。

…間違いない。

いま、松原は…お尻を触られている。

何度も感覚を司る器官に確認したのだから間違いない。
絶対にお尻を触られている。

ほら、今も。

まだ「むにゅむにゅ」されている。

通常は営業時間外の脳もこの感触がミントの様に効いて眠気は冷め、
大慌てで“何故自分のお尻が触られているのか”分析を始める。

これは「痴漢」だ。

痴漢ニ今、ボクハアッテイル。

絶対痴漢だ。
脳と松原は緊急会議を始める。

「まじどうしよ。」
「めっちゃ気持ち悪いな。」
「痴漢です!って叫べば?」
「いや、それ恥ずない?だって“お前、男やん!”って思われて、それから大阪駅まで車内でどうすんの?」
「んでおっさん捕まえたらええやん。」
「あほ!次の駅までそのおっさん捕まえとかなあかんの?イヤやわ!」
「はぁ?ほなどーすんねん!ええから叫べって!」
「いやや!お前が叫べよ!」
「ちょw俺、脳やで。無理やわ」

議論は平行線をたどる。

「とりあえず誰が触ってるか、見ようよ。」
「そやな。」

ようやく次の動きが決まりゆっくりこの感触を生み出す先を横目で確認してみる。

やっぱりごっつおっさんである。

「お前、髪長いし綺麗目なかっこしてるから女と間違えられんねん!」
「今はそんな事よりこれをどうするねん!」

松原と脳はまた議論を重ねる。

「ってかどう料理したらコレ、オモシロくなるやろな?」
「やっぱ男ってバラしてから捕まえるのが面白いんちゃう。」
「そやな!とりあえず今、叫んでもハズいから大阪駅着く寸前で叫んで男ってバラして捕まえようや!」
「おっさん、どんな顔するやろなw」
「楽しみやな!」
「でも…あと5分ぐらいずっとこの感触が俺の所に来るん辛いわ~」
「我慢せーって!俺もお前から伝わってきてるから同じやねんで!」

遂に答えが見つかりこの最悪の感触と戦う覚悟が出来た頃、電車は大阪駅の前にある「尼崎駅」に到着。
よしあと5分で大阪駅!
出口が見え始め、少し気持ちが楽になったその時!

例の苦痛がスっと消えた事に気付く…。

「あれ?」

瞬間的におっさんの方を振り向くとそのおっさんは何と!
「尼崎駅」で電車を降りていくではないか!!

慌てて松原は、おっさんの後ろ姿に向かって叫んでしまう!

「ちょっと!お、おっさん!ち、痴漢っ!」

満員の車内の視線は一斉に松原に集まる!
しかしおっさんはもう電車を降りてしまう!
「追いかけなければ!」
松原は慌てておっさんを追いかけようとするが満員電車で身動きが取り辛く、しかも大事な事に気が付く…
ここで降りたらガイダンスに遅刻する…。
オモシロを取るか仕事を取るか…。
究極の選択に悩んでいる間に電車の扉は閉まっていく…。
そしてこの車内にはいきなり「おっさん!痴漢!」と叫んだ34歳のロン毛が残される。
周囲はどう思っているのだろう。
「僕が痴漢に合ったんです。」と叫ぶのもおかしいし、
大阪駅までどういう感情で過ごせばいいのか。
さ、最悪やぁぁあ!お願いです!

誰かボクの尻ぬぐいしてください。

114杯目 「おばあちゃんは悪気が無い。」

悪意の無い間違い。これは世の中で一番恐ろしい事である。

太陽と虎の事務所の隣に駄菓子の卸屋さんがある。
ここは推定70歳の本当に人の良い、腰がほぼ鋭角に曲がったおばあちゃんが1人で切り盛りしており、60年以上営業しているという老舗である。

正直控えめに伝えても大至急ガンガン入歯のおばあちゃんなので何を喋っているか3割ぐらいしか解らない。
でもいつも優しい大好きなおばあちゃん。

そんな先日、太陽と虎にやってきたイベンターさんがこの卸屋を発見し、思いつきで駄菓子をイベントで売る事にした。
そして段ボール3箱にも及ぶ駄菓子を購入。総額37504円。
駄菓子でこの金額はもはや業者。
おばあちゃんは“こっちビューでは象形文字に見える数字”を裏紙に走らせ素早く計算してくれた。
そして重い段ボールを車まで運ぶ。
しかし車まで運ぶ道中、37504円という金額に疑問を抱く様になる。

「なんか、ちょっと高くないすか?」

勇気を出して発言した松原の言葉に皆は反応する。

うまい棒1箱、ガムの箱4ケース、ベビーラーメン2ケースなど体感で感じる金額よりちょっと高い気がする。
しかし再度金額を確認するのはおばあちゃんを疑っているようで気が引ける…。
悩んだ我々は再度駄菓子屋に赴き、追加でお菓子を買いながら1つ1つ金額を聞き出す作戦に出る。

「おばあちゃん、これなんぼやっけ?」
「これは2000円や」

これぐらいのセンテンスであれば何とか聞き取れ、松原はこっそりメモをしていく。
そして3000円分ぐらいの駄菓子を追加で購入し、車に戻る。
聞き出した金額を元に総額を計算するとなんと31530円では無いか!
ここから我々の感情は葛藤の方向へと走り出していた。
葛藤に長い時間滞在し、そのままある決断をする。

「やっぱ、これは言いに行かない?」

この言葉を出す勇敢さは百年戦争で活躍したジャンヌダルクに匹敵する。

おばあちゃんは悪気が無い。
それは分かっている。

でも…5000円の差額はちょっとデカ過ぎるよねぇ~…。

という事でまた車から再び段ボールを持って駄菓子屋に向かう。

「おばあちゃんゴメン。さっき聞いた金額でちょっと売値決める為にね、たまたま計算したら…その、ちょっと支払った37504円より安かったから… なんか計算間違ったかな~と思って…」

細心の注意を払いおばあちゃんに再計算をお願いする。
もちろんおばあちゃんが傷つかないように笑顔を表情に塗りたくる。

「わたしはそんなまだボケてないよ~」

おばあちゃんの自虐的ツッコミは僕の心を締め付ける。
しかし再度計算をし直すと31930円。

なんでまた新しい金額出てくるねーん。

詳しく調べるとさっき聞いた金額と違う商品が続出。
おばあちゃんも伝えミスを認めず、こっちが聞き間違いだと言い張ってくる。

確かにそうかもしれない。

でも確率で言うとおばあちゃんの言い間違いが高くない?
そんな言葉を飲み込みつつ、駄菓子屋の中は沈黙が続く。
計算ミスを認めないおばあちゃん。
お金を返してもらいたい我々。
いや、もはやお金は返してもらわなくても良いのでスッキリだけしたい我々。

「ほんまに買った商品、全部持ってきてくれた?」

遂に我々は疑われてしまう。

「いや、全部ですよ!」
おばあちゃんはもう6回目の再計算をし始める。
そしてまた生まれた沈黙のあと渋々差額の5574円をポケットから取り出しテーブルの上に置く。

気まずい空気が流れる。

お金をすぐ回収するのもやらしいので段ボールを先に片付け、そしてようやくお金を受け取ろうと
テーブルに目をやると何気なくその5千円札をポケットにしまうおばあちゃん。

テーブルに残された574円。

そして松原の目には5千円札の代わりに悪意が置かれた様に見えた。