112杯目 「ミュージシャン松原」
先日弊社所属バンドのツアーに同行した時の事である。
前日から移動したので夜になり1人でこの街の個人経営な雰囲気のいい飲み屋を探していた。
これは松原としては出張の醍醐味で過去にも普通に生きてたら一生出会う事が無かったであろう土地の居酒屋の大将と熱い抱擁まで辿り着いた事もある。
今日も新しい出会いに期待し彷徨う事数十分。
遂に外観だけではあるが松原の嗅覚を刺激する飲み屋を発見する。
この扉を開いてしまうともう逃げれない。
こういうお店は常連客だけで成り立っている事が多数で悲惨な身内のりグルーヴに溺れるケースがあるからだ。
勇気を出して中に入ると理想の温かい木目の内装にカウンターの中の上品な女将さんと大将が笑顔で「いらっしゃいませー」
もはや声まで温もりがある。
心は湧踊り、カウンター席に腰を据える。
カウンターに並んだ一品料理まで松原を歓迎してくれている。
美味しそうな料理とオススメを聞き出し注文する。
付出までバファリン以上の優しさだ。
するとカウンターから女将さんが喋りかけてくる。
「出張か何かですか?」
キターー!!ドンドン喋りかけてー!
今宵もこの街と繋がり、最高の時間になる事をほぼ確信する。
しかしあまり興奮しない様に冷静に答えなければならない。
「あ、まーそうですね。そんなところですねー」
意味深そうな言い回しで包装する。
すると「もしかしてミュージシャンの方ですか?」
あ、そうくる?
髪も長いのでそう思ったのかな?
でも違うから否定しようと思った瞬間!
奥から料理を持って来た大将が
「え!ミュージシャンの方ですか!凄いなー!」
とモノサシでは測れないメジャー級の高いテンションで喋りかけてきたでは無いか!
なんか否定するのも悪い気がしてしまい「ま、そんな所ですね(笑)」と答えてしまう。
すると夫婦で凄い盛り上がってしまい色々質問を投げかけてくる。
松原ももう後には引けない。
心が痛みながらも彼らの純粋無垢な質問に期待通りの回答を用意する。
「そうですね。曲って僕の場合は朝目覚めた時にメロディーが降りてくるんですよ。」
「ツアーばかりしているとこういう出会いが僕の感性を刺激してくれるんです。」
「いや、モテませんよ。多くのファンの前でライブしますが終わってホテルに帰るとふと孤独を感じます。」
などなどリアクションが想像以上なのでこっちもドンドンとテンションがあがってしまい歓談の花を咲かせた。
そして2時間程経過し、すっかりミュージシャンの松原はキャラも出来上がりそろそろお愛想タイミングである。
名前は“松原”って言います。でも敢えてアーティスト名は伏せさせてくださいと言い残し、再会を約束して店を後にする。
ちょっと嘘をついてしまったがいい出会いであり、また必ずこの店に帰る事を心に決め、その夜は床につく。
寝る前に気持ち良くなりすぎてこの幸せさを誰かに伝えたくなり、居酒屋の写真をfacebookにUPして瞼を閉じる。
翌朝最高の気分で目が覚め、iPhoneを見るとfacebookでメールが届いていた。
眠気眼で開封してみると
「松原さん!昨日私の両親がやってる居酒屋に来てくれましたよね?松原さんですよね?お母さんとお父さんは松原さんがライブハウスの人って知ってちょっと驚いてましたがお話も面白い人で大好きと言ってました!またお待ちしておりますね!
追伸:facebookで宣伝もしてくれてありがとうございます!」
うわぁぁぁ!超絶恥ずかしいやんけぇぇぇ!!!最悪や!こんだけミュージシャントークしといてどのツラさげて行けるねん!二度と行けるか、アホーーーーーーー!
メロディーが降りてくるんですって言ってもたやんけぇー!恥ずかしすぎる!くそー!
今日の目覚めは「怒りのメロディー」が舞降りてきてます。
-2014/04/06 update-