121杯目 「美容師の復讐」

今年もいっぱい台風が日本を襲っておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
神戸に咲く一輪の薔薇・松原です。
しかし台風はいいですね。進路が決まってて。
松原も学生時代は進路に迷い、のりで働き始めたこの音楽業界も15年目に突入。
15年前からライブハウスをやっている訳なので今まで出会ったバンドの数は天文学的な数字になっているはず。
たまに行ったお店とか仕事先でも

「覚えてます?〇〇ってバンドをやっていた〇〇です!」

なんて声をかけられる事も本当に多くなっております。
そんな先日も打ち合わせの合間に小一時間の隙間があり、ふと髪の毛を切ろうと思い立った。
軽くネットで近くの美容室を検索。
早速電話すると「今からならいけますよ」say。

初めての美容室はちょっと緊張するがこのチャンスに髪を切らないといついけるか解らない。
勇気を出してオシャレな美容室の扉を開ける。
イルカの一家がなんとか泳ぎ回れるぐらいのこじんまりした店内の美容室だが雰囲気はとてもいい。
早速席に案内され、30代中盤ぐらいのさすが美容師というオシャレは髪形の男性が松原の背後に到着し、鏡越しに笑顔で挨拶をしてくれた。

「今日はどのように致しましょうか?」
「あ、あんまり時間無いのでパっと適当に切っちゃってください。」
「適当にですか?どれぐらい切りましょうか?」
「う~ん。お任せします!」
「かしこまりました。」

そんなやりとりの終え、早速、よく手入れされたハサミが松原の髪の毛の中に手際よく入っていく。
そしてまもなくして美容師が話しかけてくる。

「音楽関係のお仕事ですか?」

松原の事は知らない様子なのでとりあえず

「まーそんな所ですね。」

と答えておく。

「僕も15年前ぐらいにちょっとバンドやってまして。」

美容師で元バンドマンは結構多い。
別に驚く事では無い。
適当に相槌を打っているととても懐かしい話に突入する。

「僕、パインフィールズってライブハウスが好きでよく行ってました。」

そう、何を隠そう松原が15年前に初めて店長を務めたライブハウスなのだ!
なんか急に嬉しくなり何を見に来たか尋ねてみる。

「なんか丸刈りデスマッチってイベントありましたよね?」

そう!15年前松原が発案したイベントで6バンドが出演し集客が一番少なかったバンドが丸刈りになるという今ではPTAですぐ問題になりそうな画期的なイベントなのだ。
益々嬉しくなり会話が弾む。

「そのイベント、知ってくれてるのは嬉しいな~!なんたって丸刈りにする瞬間が凄い盛り上がるんですよ!みんなハゲになりたくないから集客を頑張るから毎回満員な当たりイベントでしたからね!」

松原の悪い癖ですぐ武勇伝っぽく語ってしまう。
その丸刈りになったバンドマンのリアクションを笑いながら巧みに説明する。
すると笑ってくれるのでは無く、

「でもその丸刈りになった子、可愛そうですね。」

というノリの悪い反応。
なんか肩すかしをくらったような気分になったその瞬間、その丸刈りになった奴の顔をうっすら思いだし、かなり怒っていた記憶が蘇った。

「そうっすね、でも今思いだしたけどそのハゲ、結構怒ってた記憶がありますねー。今でもボクの事、恨んでるかも(笑)」

そう答えて笑いながら鏡越しに美容師を覗くと、今度は無表情で松原を見ているではないか。

「あれ?どしたんですか?」

その問いにゆっくりと彼は答える。

「覚えてません?」

急にデパートのエレベーターの中みたいに不思議な沈黙と緊張が松原にのしかかり、嫌な予感が的中する。

「そのハゲ、僕ですよ。」

さっきまで流れていた店内のBGMが聞こえなくなり美容師が耳元でこう囁く。

「ヘアスタイルはお任せで大丈夫ですか?」

-2015/03/29 update-