43杯目 「ギターリスト」

はっぴー。
サラ金の「あなたが一番」的発言は小学生級の嘘をつかれている気持ちになってイライラが止まらない松原だよ。

小学生で思い出したけどホンマにうっとい奴がいっぱいおったね。
一番覚えてるのがなんかミスした奴に

「あ~ぁ~あ~ぁ~」

を連呼するから言い返したら

「ターザンの真似してるだけなので気にしないで下さい」

と言って更に

「あ~ぁ~あ~ぁ~」

と連呼する奴。 ウガァァァーー!!
これの場合は完全に意図的過ぎてイライラするパターンね。

文頭から綴っている人をイライラさせる傷つける言葉は世の中に無造作に氾濫しておりますね。

でもね、生物学でも分析されていて人間は虐殺自体が目的に敵を攻撃出来る珍しい霊長類なんです。
だがある人は言う。

人間には本当に相手を傷つける事は言えないリミッターのようなものが組み込まれているらしく、
凡人がどんなに知恵を絞っても相手の心を直撃する台詞なんて滅多に作れるものじゃない。

だが一方で病的なまでに相手の気持ちが分からないリミッターの外れた野郎が稀にだが存在し、
そういう奴が自覚も無く吐いた台詞ほど相手を深く傷つけるものは無い!と。

そんな松原も以前、自覚無く告げられた一言が深く傷ついた事あった。

神戸にはポップ好きからヒーロー的存在のNatural Punch Drunkerと言うバンドがいる。
メジャーデビューして調子のいい彼らは皆が羨む、そんな数年前に突如松原と同姓の松原というギターリストが脱退する事になった。

結成時から超仲良しで一緒に頑張っている。
そんな意識で彼らを応援していた松原は心の底から心配した。
そんな矢先、Bassである村上氏(仮名)から一本の電話が入る。

「まっちゃん!ちょっと折り入って会って話したい事があるねん。時間取ってくれへん?」

「え?ギターの件?」

「うん。そうやね。」

そんな電話を受けた松原は慌てて会いに行き、松原の車で彼を自宅まで送りながら話をする事になった…。
これは完全にギターリストで松原を迎えたい。
そんな思いが蓋をした餃子の様に周囲へ漏れまくっている。

「ごめんな。時間取らせて。」

「いやいや、ええよ!んでどうしたん?」

「いや、相談って言うのもうちの松原が脱退したやん。でね、メンバーと話ししてて取り合えずまっちゃんに頼もうって事になってん。」

ホラ!来た!俺のギターテクニックが必要になってるやん!
ま、悪い気持ちはしないが当時店長に成り立てで仕事が多忙を極める最中、実際こんな忙しいバンドが出来るのか?
そんな不安が車内に充満する。

「そっか…でも急に言われてもな…」

「そこをなんとか考えてもらって!困ってるねん。」

強烈なラブコールである。
少年隊の東に森光子がパワハラで押し切ったのもこんな強引なものだったのであろう。
悩む松原。 だが親友が困っている。
これはどんなに忙しくても頑張るしかない!

数分の沈黙の末、OKの答えを発しようとした瞬間、彼が口を開く。

「まっちゃんしかおらへんねん!誰かいいギター探して!」

少し寒い夜。時間から取り残され永遠に夜でいるかの様な暗い公園で一人夜空を見上げると涙が邪魔して綺麗な星が滲んで見えた。

-2008/01/05 update-