132杯目 「オチそうでオチない」

萩の花がゆれ、彼岸花が咲き、季節がどんどん歩みを進める今日この頃。
本日のお話はとある打ち上げに向かうエレベーターでの出来事です。

6階の会場での打ち上げという事でエレベーターに乗り込んだ。

皆、今から始まる極上の打ち上げに胸を高まらせ会話を弾ませる。
この箱を降りたらそこには人生のご褒美と呼べる場所が待っている。

すると行先ボタンを押している友人の「あれ?あれ?」と言う声が我々の談笑を遮った。

「ん?どーしたん?」
「いや、行先階のボタンが全く反応しないねん。」

いやいや、そんな訳あるかいと松原はボタンを押してみる。
しかしボタンは反抗期の娘ぐらい無表情である。

「え?なんで!」

エレベーター内の人間がこぞってボタンを押すがボタンは我々を受け入れない。
打ち上げ会場はもう目の前というのにこんな拷問は初めてである。
高揚していた分だけ苛立ちの反動は強い。

「何故だ!?」

一同は怒りのやり場をボタンにぶつけるしか無い。
すると誰かの鶴の一言「ボタンの下のコントロールパネルみたいな所が運転停止になってるんじゃない?」
確かに行先ボタンの下にあるパネルが開いているでは無いか!
恐らく点検か何かで運転停止をしていたままにしていたのかも…。
この世の中の不可思議な現象は意外と簡単なトリックで出来ている。

それを証明した様な今回のミニ騒動。

原因が分かったと同時に一番苛立っていた友人がパネルの中にある6つぐらいのスイッチをバチバチ押していた。

「おい!ちゃんと見て押せよ!」
そのツッコミは別れてから気付く恋人の大切さぐらい遅い。

意気揚々と能天気な友人は“6階”を押す。

が…人間だったら絶対に友達になりたくないぐらい冷たい表情の“6階ボタン”。

「あれ?なんで?」

焦った友人がまたスイッチを無造作に触っている。
そして苛立ちとは連鎖するもので別の友人は“6階ボタン”を連打し始める

するとエレベーターがガタンと音が鳴ると同時に遂に“6階ボタン”が赤く染まったのだ!

「やった!」

一同は安堵するが素直に喜べない。

「何故だったんだろう?しかもさっきのガタンって音も何?」

そんな疑問と共にエレベーターは“1階”→“2階”と歩を進める。
そして“3階”から“4階”の間に差し掛かった瞬間

「ドンッ!」

という衝撃と同時にエレベーターが止まったのだ!

「うわぁぁあああぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁ!」

悲鳴が充満する。
「どうなってるんだ!」松原はパニックに陥る。
「お前が適当にスイッチを入れるから!」
「これ落ちるんじゃない?」
「キャー!」

我々は完全に混乱する。

もし混乱に重さがあるならきっとこの箱は重量オーバーで落ちているに違いない。

「出してくれー!」30秒程閉じ込められた後、いきなりエレベーターが何も言わずにゆっくり上がって“5階”に止まり、我々を解放してくれた。

ええ!?今のは何だったんだ

生きてる素晴らしさを感じると同時に気付く。

我々は“6階”に行きたい。

でもまたこれには乗りたくない…。
次こそ落ちたらどうしよう?

落ちたくない、でも乗りたい。でも落ちたくない。
中々、考えがまとまらない…

ただ今、松原が最も優先して考えないといけないのはエレベーターよりもこのコラムをどうやって落とすかである…。

-2016/02/22 update-