136杯目 「日本一円」
人間は言葉で思考する限り言葉で理解するしかない。
そして単位で認識する限り、単位で数えるしかない。by松原
という事で何を言ってるか解らない冒頭から始まってしまったこのコラムですが今回はそんな単位に対する衝撃なお話。
昨年末、超慌ただしい移動があり、綱渡りの新幹線移動。
東京駅に到着したら後10分で最終列車が発車するというスリリングな状態。これを逃すと神戸に帰れない。
急いでホームに向かうが、松原は数時間前からある事に気付いていた。
そう、松原は今、超絶に喉が渇いてお腹がすいているのだ。
残された10分という僅かな時間、車内販売という数少ない商品の中からしょうがなく選ぶのか、膨大と種類のあるコンビニから今の自分にピッタリの相手を探すのか?
これはもう結婚と同じである。
バツイチの松原は次の失敗は許されない。
誰もが松原の決断に息を飲む。
終電に乗り遅れるリスクはホテルも無い年末の東京では自殺行為。
それは解っているが松原はもうすでにコンビニに足を向けていた。
過去こんな無謀な選択をした者が居ただろうか。
しかし松原の目にはもう迷いはない。
早々にコンビニに到着し、お互い惹きあったサンドイッチとカフェラテ、そしてレジ横の母のぬくもりに似た温かなカラアゲを目指し、レジに並ぶ。
しかし障害の無い人生は味の無いスパゲティーと一緒。
さすが年末の東京駅は人で溢れかえり、過去経験した事の無いレジ列を作り出していた。
松原に与えられた時間はもう7分と迫っていたがレジ店員の動きと列に並ぶ人の商品数を瞬時に割り出し、3分もあれば松原の会計に辿り着くと判断。
これは限界まで追い詰められた人間だからこそ出来る人智を超えた潜在能力。
そしてレジの列は遂に最後の1人なる。
様子を伺うと中国語で子どもに話しかけているお父さんが1つの菓子パンを持っているだけ。きっと子供にねだられ、パンを買う中国人旅行客であろう。
このパン1つであればこのレジのバイトぐらいの力量でも30秒もかからず倒せるはず。
松原は勝利を確信し、この後に待つ3時間の列車の旅に輝く未来を期待した。
その瞬間!
目を疑う光景が飛び込んで来た!
なんと中国人が左手に持っていたポーチを空けてレジの小銭受けに向けてひっくり返した。
松原は言葉を失った…。
そのポーチから大量の「1円玉」が溢れだしたのだ!
「ま、…まさかこいつ1円でこの120円のパンを支払うのか…」
悪い予想程的中する。
レジ店員が困惑した表情で必死で1円を数えだしたのだ!
待て待て~!何考えてんねん!アホちゃう!なんで1円やねん!
で、なんでそんなに1円持ってるねん!
怒りと驚きが入り乱れ、もう冷静な判断が出来なくなる。
やばい!これはとんだ誤算!
このままだと2~3分はかかる!
いっきに形勢逆転された松原は焦り狂う…。
1円を10枚の山にして店員は自分の限界に挑戦をしてる。しかし1円を120枚数えるのはそんな簡単な事では無い。残された時間は後5分。
ここからホームまでの時間を考えると後2分。
そしてようやく12個の山が完成した。
何とか間に合った!さぁ、早くここから立ち去れ親子たち!
しかし人生とはそんなに甘くない。
なんと今度は残った1円を中国人が数えながらポーチにしまっているのだ!
ゴラァ、ボケ!早くどかんかい!
日本の通貨を何やと思ってるねん!
こんな1円だけで買い物するヤツなんて日本一円、探してもおらへんわ~!
-2017/06/27 update-