36杯目 「白い粉」

家に帰って玄関のドアを開けたらとりあえず

 

『誰だ!!』

 

と叫んでから入る小心者松原だよ。おはよだよ。

 

 
最近は多忙を極め、一日睡眠時間が日に日に短くなって耐え難い日々。
仕事ばかりして、全く遊んでもいないので、こういう時は彼女でも側にいて優しくしてくれたらな~って思うのですが、そんな僕でも色んな失恋をしてきました。

 

一番キツくて印象的なの失恋が大阪/枚方の彼女である。

 

急に連絡が取れなくなり毎日何回か電話しても一切出てくれません。
毎日電話をかけ続けて、やっと電話に出てくれたのは数週間後。

 

「もしもし!ジェニファー(仮名)?俺やけど…」

 

すると受話器から明らかに男の声で

『誰?自分?何かめっちゃ電話してくるけど何?』

 

 

えええ!?完全にヤンキーっぽい喋り方!何この男!?

 

 

「いや…あれ?コレってジェニファー(仮名)の携帯では?」

『そうやけど、これ今、俺が借りてんねん。』

「へ?あ、…そうですか?ではジェニファー(仮名)さんの今の携帯番号って知っていますでしょうか?」

『知らんわ。ま、何にせよもう迷惑やから電話かけてくるのやめてくれへん?』

もう相手は完全にキレ口調。

 

 

「あ…すみません。わかりました。」

 

 

そう言って電話を持ったまま呆然としている松原。
そして電話を切る瞬間の受話器から複数の笑い声と共に聞き覚えのある女性の声が聞こえる。

 

『あはは!今のめっちゃうま~…

ガチャ。プー…プー…プー…

 

 

 

 

 

仕事中だったのでまずは冷静を装い、所持しているレパートリーの中から一番の笑顔を纏い、周辺に察知されないようにトイレに駆け込み、声を出して便座を濡らしました。

 

そんな今から5年前の松原はまだ悲しい経験があります。
出張で新宿に行き、その日は宿泊する事になった。
お酒を飲みたくなった僕は一人新宿の街を徘徊しているとかなり落ち込んでいる若い男子を発見。
するとそいつが僕の所に駆け寄ってきて

 

「お願いがあります!うちの店に入ってください。」

 

いきなりの事で驚きつつ、放って置けない松原は理由を聞いてみる。
所謂ちょっとエッチなマッサージ屋さんの呼び込みのお兄ちゃんで今日は一人もお客さんが入っていないらしい。
田舎から出て来て本当に生活に困っていてこのままじゃクビになりますと心底、悲しい表情を浮かべる。
困った奴をホっとけない松原は人助けだと思い、「わかったよ。マッサージだね?いくらなの?」そう彼に問いかける。

 

『あああ!!!!!ありがとうございます!本当には5000円なんですが3000円でいいです。』

 

凄い勢いで喜んでいる彼を見ると、3000円で助けれるなら安いものだと、案内されるまま店内に入っていく。地下にあるこのお店は見るからに如何わしい作りと同時に薄暗く、ちょっと不安が溢れ出す。

カーテンで仕切られた個室に案内され、数分待っていると、かなりスレた感じの女性が出て来て「上半身だけ脱いで下さい」といわれる。
とりあえず言われるがままに、 うつ伏せで寝転がりそのまま指圧。
続いてよく判らない白い粉を背中いっぱいに擦り付けてくるが敢えて、これが何なのかを問わず、沈黙を選択する。
すると為すがままの松原にその女性が声をかけて来た。

 

「SMプレイかノーマルどっちにする?」

 

エエエッ!?今なんてっ?

 

「いや、そんなん僕いいです。」

『そう?ではこれで終了なので1万円になります。』

「え…?1万円?ん?どういう意味?」

 

完全にマズイ流れである。

 

 

 

『いや、貴方パウダーマッサージしたでしょ?だから1万円になります。』

 

 

 

ってゴラァ!ああぁんっ!はぁ?何が1万円やねん?
さっきの謎の粉のこと?
なんで勝手にやられたパウダーに払わなあかんのじゃ!

「帰る!」

怒りに満ちて店を出ようとすると脱いだ上着が無いでは無いか…

 

 

『ちゃんと払ってくれないと返せません。』

「こいつホンマええ加減にせーよ!」

 

 

 

完全にブチ切れた松原が怒鳴りまくると、 その女は壁についている非常ボタンみたいな奴に手を伸ばそうとするでは無いか…!!??
それ押したら怖い奴とか来るんちゃうの!?!

 

 

「おいおい!いや。わかったから!」

 

 

危険を察知した松原は慌てて動きを止めしぶしぶ1万円を支払って慌てて、脱出する。

もう怒りが絶頂。あの呼び込みの男を探してしばいてやる!
するとさっきの呼び込みの男が松原を見るなり、逃げ出した!

 
憤慨の松原は男を追いかける!!!!

「コラ待て!」

もはや詳しくて泣きながら走る松原。
さっきのパウダーがまだ体に付着していて走れば走るほど、服に擦れて“カサッカサッ”と悲しい音を新宿の街に響かせる…

結局追いかけるがあの男を見失ってしまい、発狂状態でしょうがなくホテルに帰る。悔しくて悔しくて堪らない。
しかしくよくよしててもしょうがないと気持ちを切り替え、このホテルに大浴場があるので風呂でも使って疲れた心を癒すことにする。

脱衣所で服を脱いで、浴場に向かうが、何故か視線が集まるのを感じる。
入浴前に体重計に乗っている間も周囲の視線が松原に注がれる。

謎に思いつつ、ふと大きな洗面台にある鏡に映る自分を見て、驚愕する。
そこには例の粉で真っ白な身体の松原が写っていた。

これからは人助けなど考えず、引き続き身を粉にして頑張ります。

-2007/06/05 update-