73杯目「ゲロメガネとババア」
いきなりですが、電車で横の人がゲロを吐くことってよくありますよね?
先日東京出張の帰り、新神戸最終を乗り過ごし新大阪最終の新幹線に乗り込んだ。
疲れが心地よい子守唄を歌ってくれてグッスリの目覚めたら新大阪スタイル。
慌てて在来線に駆け込み神戸を目指す。
新大阪から乗り込む人は少なく松原は座席と出会う事が出来た。
しかし次の大阪駅で人気パン屋のメロンパンを我先にと駆け込むかの如く、かなりの群集が快適なこの車両に乗り込んでくる。
あっという間にさっきまでの空間はかき消されるが幸い窓側の席を占拠している松原はこの現実から背を向け窓の外に意識を置く。
ウトウトと心地よい睡魔が舞い降りた尼崎駅を過ぎたころ…。
災害は一瞬で人を襲う現場を目撃する。
「グボッ!!!!!!」
鈍角なサウンドに乗って嘔吐物が僕の目の前を通り過ぎる。
えええ!!!!どーゆーこと!?
慌てて振り返ると松原の席の通路に立っているメガネの男が手で口を押さえなっがらゴボゴボと吐き続けてるでは無いか!!
「キャー!」
「うわっ!」
様々な奇声が車内を飛び交い松原の横の席の女性は頭からその彼の嘔吐物を浴びている。
もうテレビで見る中東アジアのワンシーンが目の前に広がる。
辺りがそのメガネを避ける様に広がり、
まるでさっきまでの満員電車が嘘かのようにメガネ君の回りには真空があるかのような空間が生まれる。
そしてゲロのかかった松原の横の女性は気が狂ったようにメガネ君に罵声を浴びせ返し去っていく。
メガネ君の隣の男性は「お前ゴラっ!」など怒りを露にするが床に広がる嘔吐物に恐れ去っていく。
そう。松原は今完全に最悪のポジションに座っている。
前と後ろは座席。
右は窓。
左はゲロの沼地。
足を踏み込めば1万8千円の靴はその価値を失う。
メガネ君は小さな声で「すみません。すみません。」と吐き散らしたゲロの上に謝罪をまき散らす。
もう可哀そう過ぎて見てられない。
しかしそこに物腰の柔らかいおばさんが優しくメガネ君に話しかける。
「驚いたよね。大丈夫?」
ハンカチを渡しながら話しかける姿はライクア聖母マリア。
「さっ、座って落ち着きなさい。」
そう言ってなんと!!松原の横にその彼を座らせたのだ。
ちょww余りの美しい光景に逃げ忘れた松原はゲロメガネ君と肩を並べる事になる。
「大変だったね。」マリアばばあsay。
「いや、ちょっと慣れないお酒で…」ゲロメガネsay。
「大丈夫。とりあえず一緒にここを掃除しょうね」
そう言ってマリアばばあとゲロメガネはテイッシュで床の掃除を始める。
もう一度今の状況を説明すると、
怒りを露にする乗客達。
スペース。
ゲロを掃除するばばあとメガネ。
そしてその横の松原。
え?俺ら3人チームなん?まじ?
一緒に掃除せなあかん?まじかよ。
「ぼ、ぼくも手伝います」
そう声を出した自分の声帯を恨んだ事は始めてだ。
「ありがとうございます」ゲロメガネsay。
「とんでもない」
そう返答した松原はエエ奴キャラを演じるしかない。
一緒に掃除をして芦屋駅に到着した頃、
マリアばばあが気分の悪そうなゲロメガネに
「とりあえず外に出ようか?ほら、手をかして。」
そう言ってゲロメガネの肩を持ち立ち上がらせる。
よろけるゲロメガネ。
先ほど作られたキャラ通り
「大丈夫ですか?」と肩を持つ松原。
気がつくと3人で最終電車が通り過ぎた芦屋駅。
最悪や!最悪や!うわぁぁぁぁ!!最悪や!
ホンマ最悪や!最悪や!
なんでこの3人で芦屋駅におんねん…
で、「本当にすみません」って謝られても…。
とりあえず
「いや、大丈夫ですよ。」
とクールに返答すると
マリアばばぁとゲロメガネは
「それでは」
と2人で改札に向かう。
ええええええええええええええええええ?
ま、まさか親子…!?
世の中には見なくていい現実は沢山ある。
でも振り返ると確かにそういえば親子であってもおかしくない絡み。
というか勝手に他人と思っていたのは自分である。
1人残された松原。
もう季節は秋。
肌寒く感じるのは十分である。
ふと足元を見るとお気に入りの靴にはゲロが細かく飛び散っている。
あのゲロメガネは自分だけ散々吐いたくせに
松原にはもうこの靴をはかさないつもりのようである。
-2010/11/14 update-