82杯目「友情の西証し」
先日三宮の献血センターで献血をしに行った時の事。
パテーション越しの隣で1、2歳の子供を連れた若い夫婦が険悪な空気だった。
旦那が血を抜かれながら看護婦に確認してた。
「あいませんよね!血液型!」子供を抱いた若い奥さんはうつむきながら看護婦をにらんでたよ。
はーい。産婆さんで生まれたので未だに自分の血液型を知らない松原だよー(本当)
世の中には知らない方が幸せな事があるよね。
そんな松原は先日京都で行われた京都大作戦というフェスに参戦。
2DAYSだったので京都に一泊するか悩んだあげく、経費削減という事で神戸に帰る事に。
なんせリハーサルの時間から行ってたのでほぼ始発で神戸を発った松原は至極睡眠不足。
そして終電ギリギリまで打ち上げに参加して飛び乗った最終列車。
京都から神戸まで乗り換えなしの快適な時間。
睡眠不足とお酒が背中を押して一瞬で夢の世界にワープ。
気が付くと心地よい電車の揺れが激しくなってくる。
むしろちょっと痛い。
「あれ?これ揺らされてる?」
と、同時に目の前に広がる駅員さんの顔。
「ちょっとお客さん終点ですよ。」
この言葉は人生で試したどんな目覚まし時計より強力に松原を現実に誘う。
「ええええ?!?!どこですか!ここ!!」
「西明石駅、終点です。」
再び目の前が真っ暗になる。慌ててホームに飛び出て周囲を見渡すがやっぱり西明石駅である。
そして改札を通り、西明石という土地に始めて足をつける
。まず伝えたいのは西明石の方に失礼承知で一言!
“マジなんもない!”
真っ暗な世界が広がる。
そして西明石駅の電気が消えると同時に今から絶望だけが所持品でたったひとりの西明石大作戦、開幕…
先程の夢の世界が嘘の様である。
今なら蜘蛛の糸の犍陀多の気持ちが解る気がする。
しかし落ち込んでいてもしょうがないのでまず考えるのはタクシーでの帰還!
しかし神戸まで値段を聞くと「9000円は行くね~」運転手say。
これだと京都の宿泊を諦めた事が悔しくてたまらないし、財布を覗くと5000円札が1枚しか入っていない。
もちろんビジネスホテルも考えたが結局同様の理由で諦める。
こうなったらなんとかして始発まで時間を凌ぐ事にシフトチェンジ。
周囲を散策するとコストパフォーマンスが最大の武器「鳥貴族」発見!
ここなら軽く食べても2000円も行かない!ここで朝まで凌いでやる!
勢いよく店内に入ると
「何名様ですか?」店員say。
「あ、1人」
「…あいにくラストオーダーが過ぎてまして…」
ええええ!?ほんとかよっ!?今人数聞いてきてたやん!!!
西明石は松原という新参者を受け入れてくれない。
しょうがないので隣の「魚民」に入るが店内は閑散。
「え…まじひとり?」
そんなエアーが席まで案内する店員から零れ落ちる。
「もう片付けが終わってますのでカウンターでお願いします。」そう言い放ち、
厨房から丸見えのカウンター席へ。
なかなかの気まずさが店内に敷き詰められ
「もう、この店の客はお前だけやで」と言わんばかり。
居た堪れなくなりビールと小鉢を食すと逃げるように魚民を出る。
入り口のネオンはあてつけの様に光を忘れている。
「魚民」のロゴが「難民」に見えてくるぐらい心がすさんでくる。
そしてまた夜空の下でひとりになる。
コンビニを発見したが立ち読み出来ないスタイルのローソンでは滞在出来ても15分。
菓子パンのカロリーと原材料全てをチェックし、また暗闇へ。
路頭に迷うが足は自然と出発点であった駅へ向かう。
もうまるで世界から必要とされていないような錯覚に陥り、欝発生寸前のその時!
駅の裏側の階段の下に死角となったスペースらしきものを発見する。
こ!ここで一晩過ごせる!松原はそのオアシスへ足を運ばせると…
なんとそこには先着というかもはや住んでる?的な所謂ベッドオンザストリートピープル(和訳:浮浪者)が2名松原の登場に驚いた表情でこちらを向いていた。
しかし孤独で心が乾ききっていた松原は思わず喋り掛けてしまう。
「実は始発までの時間を凌げる場所を探していてまして…」
そんな怪しい奴を快く受け入れてくれる2人。
なんとダンボールまで分けてくれて一緒に眠ることになる。弾む会話。
さっきまでの孤独から開放され、「何故浮浪者になったかのHOW TOトーク」から「浮浪者として生きるQ&A」など明け方まで僕たち3人は語り明かす。
知らぬ土地で生まれる友情。
これこそが旅の醍醐味。
もうこのまま朝まで喋りたいが松原の疲労に気を使ってくれて眠る事に。
熟睡を経て、携帯のアラームが鳴り朝を迎える。世界がまるで生まれ変わった様に周囲を照らす太陽の光。
照らされた周囲にはさっきまで居た友人達の姿は無い。
残念だが、松原も時間が無く断腸の思いで別れを告げれないまま、電車に乗りまた京都へ向かう。
案の定また京都を乗り過ごし、滋賀を経由してようやく京都に着いたのは昼前。
小腹が空いた事に気がつきコンビニでおにぎりを買うためにレジへ。
財布を出してみるとお札が見当たらない。
しかし松原は財布をもう一度確認する事は無くATMへ向かう。
世の中には知らなくていい事、気付かなくていい事ばかり。
“きっと違う、勘違い”
あの一夜の友情は未だに美しく胸に刻まれたまま。頬を伝う涙こそが友情の証し。
-2011/09/10 update-